マッサージやはりきゅうを受けたい人のための
コンシェルジュコラム
鍼灸なかだ治療院の症例報告 ケース⑦:その足の痛みはほんとに神経痛?
おはようございます。金沢市松村1丁目の【鍼灸なかだ治療院】の中田 和宏です。
「鍼灸なかだ治療院の症例報告」というテーマで、コラムを連載しております。(今までのコラム↓)
今回は医療連携の事例をご紹介したいと思います。
ケース⑦:その足の痛みはほんとに神経痛?
73歳 男性 主訴:左下肢痛
数年前から腰痛で鍼灸治療にいらっしゃっている患者さんです。数日前から左足のふくらはぎの痛みがあるとおっしゃいます。その痛みは散歩のときだけで、安静時や睡眠時にはありません。
家事労働を行っても痛くないので日常生活に支障はなく、あまり気にしていなかったのですが今朝の散歩のときにいつもより痛みを強く感じたので相談されました。
いつも散歩は1時間ほど。朝4時頃から5時にかけて、近くの犀川沿いを歩きます。今の季節の4時はすでに明るく爽やかで気持ちが良いとのこと。私も見習わなければと思いつつ、4時は爆睡中です(笑)
さて、散歩をはじめて15分ほど経つと左のふくらはぎがじわじわと痛くなってきます。そのまま歩いていると痛みで歩けなくなります。立ち止まり一服するとまた歩けるようになるので、家に帰るまで数回の休憩を入れながら歩いています。
こんな日が数日続いたため散歩をするのが億劫になってきたとおっしゃいます。
鍼灸治療を継続しているため腰痛は落ち着いています。痛みはないわけではありませんが、治療を継続していれば日常生活に支障がないため、これも年のせいこんな状態で良しとしているわけです。
高齢者の痛み・体調不良は「足るを知る」「三平二満」がベスト。もちろん医療で血圧などの全身状態の管理をした上でです。
「過ぎたるは及ばざるが如し」。まだ治らん、まだ痛みが残っていると、しつこくやると結果的に悪化することがあります。
もちろん、我々治療家は痛みなどの症状がゼロになるように頑張って治療することはもちろんです。しかし、高齢者の退行性変性(いわゆる老化現象)はとどまることはありません。
老化現象が止まるということは、死を意味します。
こんな患者さんがいました。
80台後半の男性。不眠症で睡眠導入剤をかかりつけ医からもらっています。たまたまある夜にそれを飲んでも眠れなかった。
翌日、別の病院へ行き、眠れないと訴えて別の薬をもらいその晩飲んで床についたところ、寝たような寝てないような変な状態が一晩続き、朝方全身痙攣が起こり県立中央病院の救急を受診。
脳の検査に異常はなくそのまま帰されました。その日一日頭がフラフラしてどうしようもなかったそうです。お薬が強すぎたのか合わなかったのか、恐ろしい目にあったとその患者さんは言っていました。
健康な成人なら一年のうちで数回眠れないことがあってもそれは病気ではないそうです。たまたまそんな日もあるようです。神経質な人は眠れないとお家一大事とばかりにあせってことを急ぎがちです。
いろいろと示唆に富んだお話ですが、今回の症例とは違うので本題に戻ります。
さて、くだんの男性。
腰痛に左下肢痛が加わり症状が増えたわけです。神経痛と考えられます。所見の取り直しをしました。一番疑わしい病気は腰部脊柱管狭窄症です。
お話の状況と一致します。歩行時の痛みはこの病気に特有な間欠跛行と考えられます。しかし、所見を取ると特徴的な兆候が見られません。
となると、次に疑わしいのは下肢閉塞性動脈硬化症です。
鼠径部(大腿動脈)、膝の裏(膝窩動脈)、足の甲(足背動脈)、くるぶしの内側(後脛骨動脈)の動脈を左右比較して触診したところ、左の膝の裏、足の甲、くるぶしの内側の動脈の脈がありません。ということは膝から下の動脈のどこかがつまっている可能性があります。
患者さんにはその旨ご説明し、いつもかかっている内科の医師にあて紹介状を書いて受診するようお話しました。
数日後、医師からの返書を持って患者さんが訪れました。
検査の結果、指摘の通り左下肢閉塞性動脈硬化症とのこと。県立中央病院にてバイパス手術を行うことになりました。
下肢閉塞性動脈硬化症(以下、ASOと略します)は、足の血管が動脈硬化を起こし細くなったりつまったりして起こる病気です。血流が悪くなるので歩行時に痛みやしびれを足に起こします。進行すれば安静にしていても痛みやしびれが出ます。もっと進行すると血流が途絶えるため、足の指が壊死を起こします。
この患者さんは歩行時の痛みを訴えていますから、軽症の部類に入ると思われますが、バイパス手術を勧められているので保存療法では改善が見込めないのかもしれません。
保存療法は、生活習慣の改善と高血圧や動脈硬化などの基礎疾患の治療、運動療法が一般的です。
運動療法はとにかく歩くこと。痛くても歩く。30分を3回に分けて歩くのが良いそうです。そうすると詰まった動脈の横の細い動脈がどんどん太くなって側副血行路ができるようになり血液の交通が確保されます。
鍼治療でも側副血行路促進が研究で確認されています(注1)(注2)。
ではなぜ鍼治療で対応せずに病院へ紹介したのでしょう。
一つには鍼治療だと効果が出るまで数ヶ月かかり、その間患者さんは痛い思いをし続けなければなりません。バイパス手術だとせいぜい1週間程度で退院して、痛みのない日常生活をおくれるようになります。
二つ目は患者さんの命を預かっているのは鍼灸師ではなく主治医であるかかりつけ医です。患者さんの情報は、かかりつけ医に報告し、治療については最もふさわしいものを選択しなければなりません。
鍼灸は今までこのような医療との連携をあまりしてこなかったように思います。
大切なことは、患者さんが不利益を被らないこと。
医療と連携し、知識と技術を総動員して最もふさわしい選択を提供します。
この患者さんは無事手術を終え、現在も毎朝の散歩をし、腰痛で鍼治療に来ています。患者さんから感謝されたのはもちろんですが、かかりつけ医から褒められたことも大変嬉しかったです。
注1:「鍼灸治療を行った閉塞性動脈硬化症1症例における治療経験」
注2:「鍼で血管が新生される」
住所:金沢市松村1丁目36番地 マーヴェラス松村1F
電話:076-267-6989
http://www.ahk-concierge.com/ahk/shinkyu-nakada/